高級なお花として知られ、花言葉に「純愛」や「幸福を呼び寄せる」意味も含む胡蝶蘭。
大輪なものになると軽く万単位するほど最高級で高貴なお花ですから、なかなか気軽にはお目にかかる機会はないとお思いの方もいるかもしれません。
育てるのが難しいというイメージがあるかもしれませんが、観賞用にご自分で育成にチャレンジし、見事成功した暁にはいっそうの達成感が味わえること間違いなしです。
そこで今回は、胡蝶蘭をご自宅で育成する際に、どのような鉢で栽培すればよいのかご紹介します。
おおまかに言って、胡蝶蘭を栽培するために用いられる鉢には、素焼き鉢、プラスチック鉢、陶器の鉢があるわけですが、まずは素焼き鉢について見ていきましょう。
目次
素焼き鉢のメリットとは
素焼き鉢とは、粘土を700〜900℃ほどの低温で焼き上げた鉢で、焼き菓子のような見た目と手触り感が特徴です。
そんな素焼き鉢がもつメリットと適した使用用途は以下の通りです。
通気性、吸水性がいい
素焼き鉢は、その外見を見てお察しのとおり、隙間に空いた細かな空洞から水分や空気が抜けやすく、植物の根が根腐れを起こしにくい環境であることから、水はけの良さを好む作物に向いている鉢になります。
胡蝶蘭は多水・多湿環境を苦手としているため、通気性、吸水性、排水性に優位性を持つ素焼き鉢は相性ぴったりといえます。
鉢内の土の温度が上がるのを抑えられる
素焼き鉢が通気性に優れるのは、低温でゆっくりと焼き上げられる際にできる微細な隙間に原因があります。
薄いクッキーのような構造をイメージするとわかりやすいでしょう。
息を強く吹きかけると素通りしていくようなイメージの通気性の良さが素焼き鉢にはあり、さらにいえば、その通気性の良さが土の温度が過度に上昇することを抑える効果ももたらします。
気化熱によって温度が奪われることで土の温度が過度に上がることを抑えられます。ただ注意したいのは素焼き鉢に塗装がされているタイプのもので、アイボリーや紺色など黒に近い色の場合、温度上昇を招くことがあるので気をつけましょう。
素焼き鉢のデメリットとは
つづいては、素焼き鉢のデメリットについても見ていきましょう。
重さ、壊れやすさ
ご想像のとおり、素焼き鉢はプラスチック鉢やプランターなど一般的な家庭菜園用の鉢と比べてしまうと重いです。
また、胡蝶蘭の場合、直射日光を嫌がるため、鉢を置く場所を変えたりすることがありますが、ぶつけたり、軽く落下させただけで割れてしまうこともあります。
空洞率がもたらすメリットもここではデメリットになる表裏一体の関係性を素焼き鉢は持っています。
水分が蒸発しやすい
こちらもプラスチック鉢と比較した場合、水分が蒸発しやすい点がメリットでもありデメリットにもなりえます。
胡蝶蘭はあまり多くの水やりを必要とする植物ではないため、水切れしそうなタイミングで最低限必要な少量かつこまめな水やりが長いあいだその美しい容姿を保つ秘訣なのですが、素焼き鉢の場合、長く油断すると水切れを誘発する恐れがあります。
ただ、水のやり貯めは根の呼吸を阻害し、植物を弱らせる危険性がありますので、素焼き鉢はそんな悪習慣がつきにくいといえるかもしれません。
胡蝶蘭に適した鉢の素材は?
冒頭でお話ししたとおり、胡蝶蘭に適した鉢の素材には、素焼き鉢、プラスチック鉢、陶器の鉢の3種類があります。
それぞれの鉢の特徴について、メリット・デメリットを把握しておきましょう。
素焼き鉢
素焼き鉢の特徴は、これまでご紹介してまいりましたとおり多孔質で小さな穴が空いていることから吸水性に富むと同時に速乾的な排水性、通気性を併せ持ちます。
与えた水が多孔部分にも浸透するかわりに、通気性や気化促進性に富み、乾きやすいという特徴があります。
デメリットとしては、プラスチック鉢と比べると重さや壊れやすさがあることもお話しさせていただきましたね。
プラスチック鉢
お次はそんなプラスチック鉢についてです。
プラスチック鉢のメリットは、軽い、安い、密封性があり保水性が高いこと、
対するデメリットは、直射日光で劣化する、排水性が悪いことがあげられます。
なんといってもプラスチック鉢の最大のメリットは安さと軽さであり、一般的な家庭菜園用途では最も人気がある鉢になります。
ただ、高級な胡蝶蘭を育てるとなると、その保水性・保湿性の高さが仇となることがあるので注意したいところ。
また、経年劣化で意外と簡単に持ち手部分などがバキッと破損してしまいやすいことも。
大切な作物に倒伏などのストレスやダメージを与えてしまわぬよう気をつけたいところです。
陶器の鉢
最後に陶器の鉢になります。
「素焼き鉢と一緒でしょ?」と思うかたもいるかもしれませんね。
どちらも多孔質の粘土からできている点では確かに一緒なのですが、陶器の鉢には釉薬(うわぐすり)と呼ばれるガラス質の薄膜がかけられており、排水性や通気性がやや犠牲になっています。
その分、鉢の見た目が艶やかになり高級感が演出されます。
鉢自体のお値段もぐんと高くなりがちで、植物栽培重視というよりも見た目に振り切った鉢といえます。
豪勢な見た目をメリットとする反面、通常、無加工の素焼き鉢と比べて重量は重く、艶やかなな表面は持ち運ぶ際のリスクにもなりえます。
資金的、栽培技術的にハイレベルな方向けな選択肢といえるでしょう。
さて、これまで植物栽培向けに用いられる3種類の鉢について見てまいりましたが、胡蝶蘭を育成する場合ですと、やはり排水性・通気性を確保したうえで経済的メリットもある素焼き鉢が一般的です。
持ち運びに難はあるものの、体力的余裕がある場合には素焼き鉢を検討したいところです。
胡蝶蘭を素焼き鉢で育てる際の注意点
さて、胡蝶蘭を素焼き鉢で育てようと検討する際、どのような準備からはじめたらよいのでしょうか?
最後に、胡蝶蘭を素焼き鉢で育てる際の注意点についてご紹介します。
鉢のサイズ選びに注意!
まず、素焼き鉢を購入しにいくわけですが、注意したいのは鉢のサイズです。
胡蝶蘭の苗を見ながら、そのひと回り大きいくらいのサイズに抑えて小さめのサイズの鉢を選ぶのが最適です。
胡蝶蘭にもよりますが、おおよそ4~5号(直径12~15cm)程度の小さい鉢を選び、1株ずつ分けて植え育てるようにしましょう。 栄養素や水分が多いほうがいいといって大きい鉢を選ぶと、根が生え回るまでに時間がかかってしまい花芽が出るのも遅れます。
生育が遅れることは花が咲かない原因にもなりえるので注意が必要です。また植え込み材が水を吸いすぎて根腐れを起こしやすくなるので控えたいところです。
置き場所にも気をつけよう
胡蝶蘭は、美しく高貴な花ですが、直射日光を浴び続けるとたちまち弱ってしまいます。
温度の面でも、寒すぎても暑すぎても弱ってしまうお花なので、20℃〜25℃くらいの過ごしやすい適温をキープしてあげるのが理想です。
また、通気性の面では換気の良い場所に置いてあげるようにしましょう。
植え込み材をよく観察する
鉢の中に敷く植え込み材というものがあります。
水分や養分を蓄えておく役割を果たす重要なもので胡蝶蘭を鉢で栽培するために一緒に必要になるものです。
胡蝶蘭を栽培するうえで選ばれている植え込み材には、水苔(みずごけ)、バーク材が有名どころでしょう。
というのも、胡蝶蘭はもともと樹木の幹や樹皮に根を生やして育つ着生植物です。
土に根を張る一般的な植物と違って乾燥に強く(逆に多湿・多水に弱い)、根も空気中に触れて育つことから、栽培するにあたっては通気性が求められます。
さて、まず水苔ですが、これはコケを乾燥させた植え込み材で、保湿性・保水性に優れ、胡蝶蘭の栽培に適した植え込み材です。
水苔は微量ではありますが養分も含んでおり、養分過多で弱ることも多い胡蝶蘭に最適で、特別な肥料を必要とすることなく栽培することも可能になります。
ただ保水性に関してはやや過多になりすぎる傾向があるため、排水性に優れる素焼き鉢と組み合わせてつかうのが一般的です。素焼き鉢は中身が見えないので植え込み材の湿り気などをよくチェックして水やりの目安にするようにしましょう。
対するバーク(バークチップ)は、樹皮を小石程度の大きさに砕いた植え込み材で、非常に通気性・排水性に優れ、水苔よりも安く手に入り耐久性も高く長持ちすることが特徴です。(水苔の場合、腐ってしまったりして2〜3年ほどで傷んでしまう)
胡蝶蘭のもともとの生育環境を考えると相性抜群でなかでもバークは胡蝶蘭の長期栽培に適しています。
水苔、バークチップ、これらはどちらがより優れているというよりも、最適な生育環境をつくる道具にすぎません。
使う鉢に組み合わせるのが一般的で、通常は保水性の高い水苔と素焼き鉢、排水性や乾燥性の強いバークとプラスチック鉢(もしくは陶器鉢)という組み合わせが標準的となっています。
素焼き鉢による全方向からの排水性・気化性を生かしつつ、水苔で素焼き鉢の過度な排水性を補うといった使い方をされるとよいでしょう。
まとめ
ここまでで、胡蝶蘭をご家庭で育成するにあたっての鉢選びと植え込み材選びについてご紹介しました。
どの素材の鉢にもメリット・デメリットはありますが、初めて胡蝶蘭を育てる方は扱いやすい素焼き鉢がおすすめです。
ほかにも個別に胡蝶蘭の栽培に関する情報をまとめておりますので、もっと知りたいと思われた方はぜひこの機会に一緒にご覧になってみてくださいね。