胡蝶蘭といえば白くて大きな花を咲かせる植物で一度は目にしたことがあると思います。
ではその胡蝶蘭を詠った俳句があることはご存知ですか?
「胡蝶蘭」と「俳句」というとあまりイメージが結びつかないかもしれませんが、胡蝶蘭というのは俳句の世界では馴染みのある単語なんです。
目次
胡蝶蘭とは?
胡蝶蘭はラン科の植物で、もともとはフィリピンや台湾などの東南アジア原産です。
肉厚の大きな葉の中に水分や養分をためて成長し、寒さには弱いですが、気温の上がる夏は非常によく葉を伸ばし株が大きく成長します。
花径10~15cmと大きめの白やピンクの花を咲かせ、2〜3ヶ月もの間楽しむことができます。
その豪華な花姿からギフトや室内装飾に使われることが多く、一年中途切れることなく園芸店で販売されています。
最近では色、株や花のサイズなどが非常に豊富になり、カジュアルフラワーとしても人気が高まってきています。
俳句のコンクールで胡蝶蘭がよく贈られる理由
コンクールの授賞式などでよく目にする花といえば胡蝶蘭ですよね。
豪華なスタンド花であったり鉢植えであったりと胡蝶蘭があるだけで会場がとても華やかな雰囲気になります。
では、なぜ胡蝶蘭が俳句のコンクールなどでよく贈られるのかというと、胡蝶蘭には「幸福が飛んでくる」「名誉」「栄光」という意味があるためお祝いにふさわしい花とされているからなんです。
さらに香りが少なく、花粉も飛ばないので花独特の強い香りや花粉が苦手という方でも大丈夫です。
贈り相手を選ばない花なので授賞式などでよく目にするのですね。
蘭について詠われている俳句はある?
蘭について詠われている俳句は実はたくさんあります。
しかも俳句についてあまり詳しくないという方でもご存知の松尾芭蕉や正岡子規も詠っています。
いくつかご紹介しましょう。
- 蘭の香や蝶の翅に薫物す 松尾芭蕉
- 清貧の家に客あり蘭の花 正岡子規
- まんじゆさげ蘭に類ひて狐啼く 与謝 蕪村
- この蘭や五助が庭にきのふまで 与謝蕪村
- いづゝから日本風ぞ蘭の花 小林一茶
- 故園荒る書斎に庭の蘭を剪り 高浜虚子
- 夜の蘭書くわれの二時三時知る 鷹羽狩行
- 年暮るる闇の中なる蘭の香も 飯田龍太
こうしてみると、蘭を詠みこむことによって句全体の雰囲気が美しくなっているものが多いですね。
さらに、凛と咲いている蘭の姿が人間の生活を捉え、日々の気持ちにそっと寄り添うような素材として使われている場合が多いです。
胡蝶蘭は夏の季語?秋の季語?
俳句において蘭の季語は秋とされています。
現代の歳時記では夏に分類している場合もあるようですが、古くは馬琴の「栞草」のように秋の季語となっています。
また、金子兜太編の歳時記によると秋の七草の一つである「フジバカマ」を昔は「ラン」と言っていたことから秋の季語であるということです。
しかし「蘭」という季語は存在しますが、「胡蝶蘭」という季語は存在しません。
その理由としては主に2つあります。
ひとつは、日本に自生していない花だということです。
古くから日本の自然の風景の中に溶け込んでいた花ではなく、東南アジアから入ってきて栽培された花ということですから自然の写生に入ってこない花は季語にならない原因と考えられます。
もうひとつは、温室栽培の技術進歩により一年中花が出回り、花の開花期間も長いということです。
春は桜、夏はひまわりのようにその時期だけ短期的にしか咲かない花は季語になりますが、胡蝶蘭はこれに当てはまりません。
このため、胡蝶蘭は俳句の季語にならないと考えられています。
胡蝶蘭以外で季語になっている蘭はある?
蘭以外で俳句の季語になっているのは、、春の季語に春蘭、夏の季語に鷺草、冬の季語にカトレア、寒蘭があります。
それぞれの名句をご紹介しましょう。
- 春蘭にくちづけ去りぬ人居ぬま 杉田久女
- 露草も露のちからの花ひらく 飯田龍太
- 寒蘭の一茎に灯のともさるる 青柳志解樹
- カトレアの花ふさはしきたたずまひ 長谷川櫂
- カトレアを挿し花嫁の父となる 大石悦子
まとめ
季語ではないため胡蝶蘭を詠み込んだ句は数少ないかもしれませんが、蘭を詠み込んだ俳句は古くから数多くありました。
蘭の持つ美しさや優雅さなどが俳句と相性が良いことが分かりましたね。
どんな時も美しく真っ直ぐに咲く花はいつの時代にも人の心を癒し、震わせるものなのです。